BLUEBLUEBLUE
ずっとずっと小さな頃、色素の抜けた薄い髪の色が、変だと言われた。 青い眼が、怖いと言われた。 その頃オレはまだ、諦めることを知らなくて、 自分のことを分かって貰おうと必死で、ただただ必死で。 生まれつきなんだと、皆の髪の毛が黒いのとおんなじで、 自分の髪の毛も瞳もちっともおかしい物じゃないんだと…何度も何度も説明していた。 でもある日、オレは気付いた。 それはたった一枚の写真。 通っていた幼稚園の集合写真。 たった一人、金に近い自分の髪。 真っ青な、自分の瞳。 おんなじじゃ、ない。 そう気付いてからオレは、諦めることを知った。 分かって貰えるはずなんか、なかったんだ。 変。 怖い。 気持ち悪い… いくらでも耳に入ってくる中傷に耳を塞いだ。 喋っても届かないのだから、と喋らないようになった。 明らかに自分だけ浮いているその写真を、幼い頃の自分は、どうしたのだろうか。 アルバムを引っ張り出してきて探しているけれど、一向に見つからない。 小学生になって、オレはサングラスをかけるようになり、 もはや飾りでしかない耳をヘッドホンで塞いだ。 中学生になって髪の色を自分の好きな、青い色に染めた。 この世界の全てから自分を遮断して、オレはただ、大好きな野球と、 野球を続けるためだけに入る高校への入試のための勉強だけした。 余計な物には関わらず、生きてきた。 でも、どうして今こんなことになっているんだろう。 「オイ、まだかよ?」 「ちょっと…待ってよ」 どうして喋らないと決めた言葉が、自然に出てくるんだろう。 「ぜってーカワイーよなぁ〜葵の幼稚園の頃って」 今、オレの後ろでぶつぶつ言っているのは、御柳芭唐。 部活の練習試合で知り合い、その日からやたらとオレに構ってくる。 「あのね、オレ男だし、可愛いなんて言われてもぜんぜん嬉しくないから」 「まだねーのか〜?」 芭唐は、オレの言葉をスルーして、背中にのしかかった。 「ちょっと!! バカ!! 邪魔だよ!!」 「いいじゃね〜かよ。メチャメチャ暇なんだよ!!」 「暇なら手伝ってよ!!」 「それはめんどい…」 ゴツゴツとした筋肉の感触が、背中から伝わる。 顔が赤くなってるのが、自分にもわかる。 「オイオイ葵〜何照れてんの?」 「照れて…ないよっ!!」 「ごまかさなくても…ちゃ〜んとわかってんよ」 芭唐は、そう言って、オレの頭にキスをした。 「ちょ…何!?」 バクバクバクバクと心臓が大きな音を立てる。 「カワイイ…」 「だからっそんなこと言われても…嬉しくな…ダメっ」 芭唐の手が、オレのサングラスを外す。 そして、オレの前に回り、座り込むと、じっとオレの眼を見つめた。 「オレ、葵の青い髪も、青い眼も、とにかく葵をかたどる全部を、愛してっから」 「え?…てか……は?」 「コンプレックスだったんっしょ?髪とか。眼とか。こんなに、キレーなのに」 そう言って芭唐は、今度はオレの瞼にキスをした。 「やっ…」 ぎゅっと強く強く瞑った瞳をゆっくり開ければ、今まで見たこともない、 優しい顔した芭唐が居た。 「言っとくけど、こんな顔見せんの、葵だけだから」 照れ臭さそうに頭を掻くと、芭唐はオレの後頭部を手で引き寄せる。 芭唐の胸に収まるオレの身体。 「オレが愛してやんよ、今までの分。寂しかった分も、オレが傍に居てやっから。 ンな悲しそうな顔、してんじゃねーよ…」 涙が出た。 全部、見抜かれていた。 そうだ、オレは寂しくて。 認めてほしくて。 「泣くなって」 嗚咽が止まらない。 芭唐の胸に顔を押し付けて、シャツをぎゅっと握って、オレはひたすら泣いた。 芭唐はずっと、頭を撫でていてくれた。 芭唐が好きだなぁって、心から思った。 そしてオレは、写真の在り処を思い出した。 「思い…出したよ」 オレは芭唐の胸から顔を上げ、言った。 「何を?」 「だから、写真」 「マジで!?」 (こくん) オレは、芭唐から離れ、自分の部屋へ行く。 芭唐も、後からついてくる。 「どこだ?」 「待ってて」 オレは、クローゼットを開け、中学の卒業文集を開いた。 パラパラパラと落ちてくる、沢山の写真。 「何でこんなトコにあるんだ?」 「高校になったら、過去とか…全部捨てて、一人で生きようと思った」 「バーカ」 「だよね」 オレは苦笑する。 でも、その頃は本気だった。 両親も、遠くに住んでるから会えなくて、オレはこのままずっと一人なんだろうなって、 思ってた。 「その頃から、オレが傍に居てやりたかった」 「ありがとう、気持ちだけで、嬉しい。ハイ」 オレは落ちた写真を拾い、芭唐に渡す。 「お〜やっぱ可愛いじゃねーか。まぁ、今ここに居る葵が一番好きだけどよ」 芭唐はそう言うと、オレの手を引っ張り、キスをした。 「ちょ…」 驚きすぎて言葉が出ない。 「ぷっ…間抜けな顔」 「笑うな…っ」 芭唐はオレの頭をポンポンと撫で、ニカっと笑う。 その笑顔を見て、また涙が零れ出す。 もう、一人じゃ、ない。もう、あんな淋しい思いをすることもない。 「そばに…いてくれるの?」 「あぁ、ずっと傍に居てやんよ。淋しいときは、いつでも呼びゃいい。 オレが、すぐ飛んで行ってやっから。つらい時は、いくらでもオレに当たればいい。 全部、受け止めてやっから」 「芭唐…」 芭唐の言葉が心に染み渡る。 愛しくて愛しくて、溢れそうだ。 「すき」 「…おう」 オレの言葉に芭唐は幸せそうに笑うと、オレの髪を摘んでキスをして、 瞼にももう一度、キスをくれた。 「誰が何言おうと、オレは、大好き」 「芭唐に好かれてるだけで、十分だよ」 芭唐が愛してくれる。 それだけで、コンプレックスが、こんなに愛おしい。 無駄だと思った自分の存在が、こんなにも誇らしくなるんだね。 「ありがとう」 「礼なんか、いらねーって」 いつか僕も、芭唐に返せますように。 こんなに沢山の幸せを、あげられますように。
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