エンドロール
「でも土方さん、こいつら結局ドロッドロの泥沼離婚するんですぜ」 「お前な、余韻ぶち壊すようなこと言ってんじゃねーよ!」 恋愛映画のエンドロール、幸せそうに微笑む大画面の中のカップルに向かって沖田が呟けば、土方が声を殺して咎めた。 二人が見ている映画で出逢って結婚した大物同士のカップルは、大々的な結婚発表の3ヵ月後、W不倫が発覚。 今現在、ワイドショーでは財産を巡って争っているらしい、と遠い国のゴシップを伝えていた。 「大体何で、男二人で恋愛映画なんか観なきゃなんねーんだよ」 「仕方ねィじゃないですか。近藤さんが振られて余らせたんだ」 「俺誘わなくてもいいだろ、俺を」 「たまにはいーじゃねィですか。いい刺激になったでしょ? まー俺には退屈なだけでしたが」 土方と沖田は、余ったポップコーンをぼりぼりと食べながら、帰り道を辿ってゆく。 「大体エンドロールが流れたって、それから生活は続いてくわけで。二人は結ばれましたハッピーエンドですよって言われてもリアリティが感じられないでさァ」 「相変わらずお前は捻くれてんな」 「土方さんはそう思わないんですかィ?」 沖田がポップコーンを掴んで口に入れて、土方の方をちらりと見ると、土方は何かを悟ったように小さく笑った。 「総悟ォ、人生ってのは終わりがわかんねーから楽しいもんだ」 「だから、俺だってそう言ってやすでしょう」 「あの映画の中の二人だってきっと仲良くやってんだろーよ」 「実物は離婚してても?」 「あァ。エンドロールが降りたなら、続きは勝手に想像してやりゃァいい」 沖田は、足を止めて思いを巡らせた。 大画面の中に居た二人は、華やかとは言えないが、幸せそうな顔して笑っていた。 沖田はその二人が一瞬自分たちにだぶり、慌てて首を振る。 「どうした、総悟?」 「悪夢のような予知夢のような白昼夢を見やした」 「どれだよ!」 沖田の曖昧な返事に思わず突っ込んだ土方に、沖田は思わせぶりな笑顔を向ける。 「土方さん、人生はわかんねィからおもしろいんですぜ。まァ俺はただ、正夢になるように願うだけでさァ」 「悪夢なんじゃねーのかよ」 「さァ、まだわかりやせん」 物語が終わっても。 エンドロールが降りても。 幕が閉じても。 二人の未来は続いてゆく。
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