ガードレールにもたれる


「キスでも、してみやす?」

買出し帰り、夕暮れどき。
俺の少し前を歩いていた沖田隊長がふいに呟く。

「え? 今、なんて?」

俺は気付かないふりをして、沖田隊長に訊き返した。
長い一本道には、延々とガードレールが続いている。
そこに腰掛けた沖田さんは、聞こえたくせに、とまた呟いた。
買出しの袋を胸に抱えたまま、沖田隊長は俺に手招きをする。

「アンタのことが、好きでさァ。アンタもそうだと思ってやしたが、俺の勘違いでしたかねィ」

俺と眼を合わせているようで、微妙に反らした視線で、沖田隊長は言葉を紡ぐ。
俺も沖田隊長をまっすぐ見られずに、不自然に視線を反らした。

「だから、キスを?」
「そう、でさァ」

ガードレールに腰掛けた沖田隊長は、いつもより小さかった。
手を伸ばせば、すぐに抱き締められそうだったけれど、腕の中の買い物袋が邪魔で出来なかった。
抱き締めてしまえば、きっとこのまま当分は放したくなるだろうから、買い物袋を持っていて良かったと思った。
流石に、男二人がこんなところで長い間抱き合っているのは不自然だろう(しかも真選組の隊服で)。
というかそういえば、俺は肝心なことを伝えていない。

「俺も好きです。沖田隊長」

ほんのりと染まる沖田隊長の頬に、俺の腕は無意識のうちに伸びていた。
地面に落ちた買い物袋からマヨネーズがガードレールの向こうに転がっていったのを見ないふりをした。
腕の中の沖田隊長は、思っていたよりずっと細くて華奢で、俺は少し驚きながらもきつくきつく抱き締める。
不自然なんて、知ったことか。
この腕の中のぬくもりも、これから重なるであろう唇も。
不自然だと言うのなら、いったいこの世界の何が自然だと言うのだろう。

「ちょ、山崎。苦しいでさァ」
「あ、すいません」

少し怒ったような顔をした沖田隊長が、照れくさそうに俺の服の袖を掴む。
そのまま引っ張られるようにして、俺たちは唇を重ねた。
沖田隊長の買い物袋も、地面に落ちた。
中身は全て、ガードレールの向こう側に消えた。






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