命懸けのバレンタイン


「土方さん、チョコくだせェ」
「何でオレが」
「アレ? 今日は老若男女入り乱れてチョコを渡し合い、貰えなかったら悪戯してもいいって祭だと聞きやしたが。違うんですかィ?」
「それ、何か別のイベント混じってるから」

珍しく、自分の部屋にバズーカを持たずに訪ねてきた沖田に、土方は少々嬉しさを感じたが、沖田のとんちんかんな答えのせいで、その嬉しさも儚き泡へと消える。

「ンなでたらめ、誰から聞いたんだ?」
「坂田さんでさァ」
「アイツめ!」

土方は、沖田にいい加減な知識を植えつけた坂田を心の隅で呪いつつ、言葉を続ける。

「総悟、いいか? 今日はバレンタインっつってな、女が好きな男にチョコレートをやる日なんだとよ」
「へーそうなんですか。勉強になりやした。あ、俺用事思い出しやしたんで」
「あ? あぁ」

ばたばたと走り去ってゆく沖田の背中を見つめつつ、土方は相変わらず沖田の頭は空だ、と小さく笑った。

その夜。
仕事から戻って来た土方が部屋へ帰ると、机の上には小さな小包が置いてあった。
沖田総悟、と書かれた包みから漂う甘い香りに、土方の期待は否が応にも高まる。
俺からの気持ちでさァ。一生懸命作ったんで、食べてくだせェ、と書かれた手紙にときめいて、土方が期待に胸膨らませ、包みを開ければ。
土方の目に入ったものは、チョコと呼ぶにはあまりにも不憫な茶色の物体。
そして箱の下に書いてある、食わねェと命はありやせんぜ? という脅迫めいた追伸。

「どうしろっつーんだよ……」

土方は、その茶色の物体を前に、食べても食べなくても死が待っている自分の暗い未来に頭を抱えた。
そして沖田がチョコをくれたという喜びと、茶色の物体が持つ破壊力の間で揺れ動く土方の心。

その頃沖田は一人、部屋で自分のチョコレートに頭を抱えているであろう土方を想像して笑っていた。
咄嗟に思いついたにしては、いい悪戯だ、と沖田は自画自賛する。

「土方さんなら食っちまうんだろうなァ」

しかしそれが、嬉しくもある沖田は、心の中で小さく呟いた。

「安心してくだせェ。毒なんか入ってやせんぜ」









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素直に渡せない沖田さん。




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