心の一欠け
ねぇ、冥。 僕ら一番大切なもの見失って、いったいどこで何がしたいのかなぁ? ひとつになれると信じて、重ねた身体だけが痛いよ。 「苦しいよ……」 情事の後、きつく抱き締められたら、つん、と汗の臭いが鼻を刺した。 これを、愛しいと思う気持ちはほんとなのに、この心に溜る淋しさは何なのだろう。 「あ、あぁ。悪りい」 冥はいつも、どこか不安に駆られているように見えて、必死に僕を離さまいとする。 シーツを握り締めていた指先が、力の入れすぎで白くなった。 壊れまいとする身体が、折れないように何度もしなる。 冥との行為は、いつだって何かを確かめているようで。 そして、その何かはもう、何処を探したって見つからない気が、した。 「僕は、どこにも行かないよ?」 なだめるように囁いて、今にも泣き出してしまいそうな冥の瞳を、胸に押し付けて隠す。 小さく震えているようにも見える冥は、酷く哀しい眼をしていた。 きっと、冥から見る僕も、同じ眼をしてるんだろう。 僕らを繋ぎ止めるものが、徐々に薄くなってゆく。 どうしてだろうね。 あの頃僕ら、眼を合わせるだけで幸せなはずだったのに。 何に急かされていたのだろう。 何を求めていたのだろう。 「冥の方が、消えてきそうだよ」 僕の腕の中で冥は、今にも儚く消えてゆきそうだ。 僕を求める冥が、僕の上で散ってしまいそうだ。 「とりあえず、お前置いて消えるわけねぇだろ」 気休めの言葉なんて要らない。 冥はきっとまだ、気付いてない。 ねぇ僕ら、いつから手を繋いでいないっけ? 最後に、キスをしたのは、いつだったっけ? 僕らはただ、一つになりたくてなれなくて。 身体を重ねたはずなのに互いを求めたはずなのに。 どうして今、離れるためにこうして重なっているんだろう。 気付いていなくとも、冥は無意識に足掻いているように見えた。 僕は、気付いていながら眼を反らしていた。 好きだけじゃ、駄目なんだって。 それより大きなものが、僕らを阻んでるんだって。 とっくに知ってたはずなのに、僕らは何を夢見てたんだろう。 「冥……」 「何も、言うな」 神妙な僕の声を察した冥が、次に続く言葉を制す。 僕らもう、終りだね。 言えなかった言葉が、巡り巡って胸を刺す、涙誘って僕を追い詰める。 「一緒に……居たいんだよ」 冥は、何も言わずに僕の手を強く握り締めた。 涙だらけの顔に、キスをくれた。 僕らは、言葉もなく抱き合っていた。 あぁ、この温もりだ。 やっと思い出した。 思い出せた。 「あったかいね、冥」 「あぁ、そうだな」 心に溜った悲しみが、嘘のように溶けていった。 きっともう、大丈夫だよ。 何処へだって行ける。 何だってできる。 もう一度キスをしたら、久しぶりにデートの予定でも立ててみようよ。 +++++++++ 記念小説なのに暗すぎたなぁ。
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