困難改善装置ミヤナギ１号

僕はちゃんと、皆と同じように、呼吸できているかなぁ。
僕はちゃんと、皆と同じように、歩けているかなぁ。

途切れる呼吸。
上手く踏みしめられない地面。
ちゃんと、皆とおんなじに生きてるはずなのに。
どうして上手く生きられないんだろう。
どうして上手く、振る舞えないんだろう。
例えばこの。
胸に宿る小さな気持ちも。
例えばこの。
身体駆け巡る揺らめきも。
僕には持て余すことしかできなくて。
いつだって、上手く喋れないんだ。

「葵、どうかしたか？」
「あ…ううん」

ようやく彼の前で出せるようになった声を、絞り出すように返事を返す。
眩しすぎた彼の隣に居られることが、未だ信じられず、身体が縮む。
何を喋ればいいのかわからずに、手をいじって下を向く。
すると、堪り兼ねた御柳が僕を引き寄せた。

「つまんねぇ？」

消え入りそうなその声に、腕の中で必死に首を振る。
傍に居られるだけで、十分なんだよ。
言いたい言葉は、音になる前に喉の奥で消えた。
抱き締め返したい。
身体から沸き上がる想いは、脳に到達して神経動かす前に、ちりぢりになってしまう。

「………」

御柳は、何か言いたそうに、それでも言葉にならずに僕を更に強く抱き締めた。
きしきしと身体締め付けられて、このまま御柳の腕の中で溶けてしまいたい。
そんなことを思っていたら、御柳が僕の口を塞いだ。
縮こまる僕の舌を、絡め取るように、御柳の舌が追う。
とろけてしまいそうな口内に、溢れそうな唾液。
何度も何度も、角度を変えて続くそれに、僕は上手く呼吸ができなくて、それでも離れられなくて。
必死に御柳の背中に腕を回して、服を掴んで。
どうにか応えてそれでもやっぱり苦しくて愛しくて。
伝えたくて伝えられなくて。
ゆっくりと、身体が後ろに倒されてゆく。
唇を離せないまま、僕らはただただ必死に弄りあって、必死に指を絡めて。
ようやく合った目と目。
視線を絡ませたら一気に身体中の血液が逆流するように熱くなる。

「葵、好き」

僕は、愛しすぎるその声に、何度も頷く。

「つまんねぇなんて、思わせねーような男になっから」

違う。
違うんだ。
つまらないわけない。
僕が、上手くできないだけなんだ。
僕が、上手に振舞えないだけなんだよ。
僕は、どうにかわかって欲しくて伝えたくて。
御柳の服の袖を掴んで、耳元を引き寄せた。

「傍に、居られるだけで…嬉しいから」

僕の言葉に、御柳は何の反応も示さない。
それでも僕はまだ、必死に言葉を紡ぐ。

「だから、だから…ね。つまらなくない。楽しいよ。御柳と居られるときが…一番っ…」

幸せだ、と零そうとした唇は、御柳からやってきたキスで再び塞がれた。
繋いだ手を、きつくきつく握り締める。
身体をくっつけて、どれだけくっつけてもくっつけても、足りないくらいくっつけて。
僕らは何度もキスをした。
御柳は何も言わなかったけれど、それでも嬉しさや喜びが、身体中から伝わってくる。
うん、コレだ。
持て余し続けてた気持ちが、ゆっくりとカタチになって御柳に流れてく。
唇を離したら、小刻みな息が御柳の頬を緩ませる。
良かった。
僕は今、上手く呼吸できている。

「オレも」

御柳と一緒に、生きている。
囁かれた言葉に小さく頷けば、御柳の唇が僕の首筋に降りてきた。
甘い疼きが身体で揺れた。
ざらついた舌は少しだけ、僕の感覚をおかしくさせた。
身体も心もいっぱいにするこの温かさが、きっと幸せってもので。
御柳と居るときには過剰分泌してたまんなくなるよ。
僕は、御柳の頭をぎゅっと抱え込んで、きつく抱き締めた。
温かい。
人肌っていいね。
こんなに温かかったんだね。

「温かいね」
「何ならもっと熱くしてヤっけど？」
「遠慮しとく…」
「ちぇー」

眼が合って、僕らは思わず笑った。
二人同時に、離れていた手を繋いだ。
きっときっと、こうしていれば二人歩いてけるんだろう。
僕だって、上手に歩けるようになるんだろう。
そう思わせてくれたのは御柳だよ。
他の誰でもない、御柳なんだよ？

「ありがとう」

そう思ったら何だかたまらなくなって僕は、小さな声でお礼を言った。
御柳は、「何を今更」と笑っていた。

僕は何だか嬉しくて、「上手く喋れないよ」と零した。
「うまく喋る必要なんかねーだろ」と、笑ってくれた。

その言葉がその顔が、僕を楽にする。
僕を自由にする。

「ありがとう」

もう一度言ってみたら、持て余す気持ちにキスをくれた。

「ありがとう」

もう一度言ったら、御柳のほうが持て余してるみたいだった。
だから僕からキスをした。
















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Deep Sky Blueの日比谷皐月様へ、相互御礼、柳馬微エロ甘です。
えー、どこが微エロなんだ、と激しく自分自身を問い詰めたいです。
ヌルくてすみません。
てか甘、どころがゲロ甘ですみません。
妙なタイトルですみません。
謝りたいことは多々ありますが、こんなもので良かったら貰ってやってくださいませ！
では、相互リンクありがとうございました。
西川柚子。