幸福論
零した涙の数だけ、幸せになれると思った。 流した血の量だけ、幸せになれるのだと、信じていた。 「驚きやしたぜ、旦那」 「何が?」 「アンタが攘夷戦争に参加してた、だなんて」 沖田の一言で、変わったかのように思われた銀時の目は、すぐにいつものやる気の感じられない色に戻る。 「総悟くんがまだ鼻たらしてたガキの頃の話だよ」 「じゃあ、参加してたのは事実なんですねィ?」 ふいっと視線を反らした銀時は何も答えはしなかったが、その行動こそが全てを物語っていた。 銀時の部屋にはもう昼だというのに布団が敷きっぱなしになっており、空気を舞う埃がカーテンの隙間から刺す太陽の光に反射して、きらきらと光っている。 きれいとは言い難い部屋も、敷きっぱなしの布団も部屋を舞う埃も、全ていつも通りのはずなのに、沖田には銀時だけが遠く感じられた。 狭い部屋に居るはずなのに何故か遠い銀時に、沖田は無性に淋しくなって銀時の胸に顔を押し付けるように抱きついた。 「おかしいですよねィ」 「総悟くん? どしたの?」 「俺が政府の下で働いてるのは近藤さんが好きだからで、旦那が攘夷戦争に参加してた頃、俺はまだ、右も左もわかんねェガキだったってのに」 「オイオイ、彼氏の前で浮気宣言ですかコノヤロー。銀さん泣いちゃうよ?」 「旦那が攘夷戦争に参加してたって聞いて、俺の全てを否定されたみたいで苦しいんでさァ……」 銀時の腕の中で震える沖田からは、いつもの様子は微塵も感じられない。 銀時は、少々ふざけた返しをしてしまったことを反省し、沖田の背中を強く強く抱き締めた。 「かーわいいこと言ってくれんじゃねーか。銀さんそれだけで攘夷戦争に参加した甲斐があったってもんよ」 「ふざけないでくだせェ。今の俺の気持ちなんてわかんねィ癖に」 「俺ァいつだって真面目だよ。大体、苦しいのはいいことなんじゃねーの?」 「旦那に俺の何がわかるんですかィ? 旦那の言うこたァ、時々意味がわかんねーや」 「苦しいんだろ? そりゃァ、総悟くんが自分の仕事に誇り持ってる証拠じゃねーか」 銀時はぽんぽん、と腕の中でもぞもぞと暴れる沖田をあやすように沖田の頭を撫でる。 「旦那は、持ってたんですかィ?」 ようやく銀時の腕の中から抜け出せられた沖田は、今度は銀時に問い返す。 真剣な沖田の瞳を交わすように、銀時はさりげなく眼を反らして笑った。 「俺? そりゃァ持ってたよ、少なくとも戦ってる時はな」 「じゃあ、何で」 銀時は、切なそうな眼をして沖田を見た。 そして再び、沖田を抱き締め直す。 「こうやって抱えて大切にしてたモンを失ってまで、戦うことが馬鹿らしくなったんだよ」 「旦那……」 「ひでー話だろ? 幸せになるために戦ってんのに、戦えば戦うほど不幸になってくんだぞ?」 沖田の肩に顎を乗せ、銀時は語りかけるように喋り続ける。 銀時の声には、いつもより熱が入っているように思えた。 自分を抱き締めている手が、微かに震えているのが沖田にはわかった。 「いま……今、は?」 「ん?」 そんな銀時に、沖田が恐る恐る訊ねると、銀時は小さく笑った。 「わかんねーの?」 試すような銀時の口調に、沖田はむう、と頬を膨らませて銀時を睨む。 銀時はそんな沖田が可愛くて堪らないようで、わしゃわしゃと沖田の頭を撫でた。 「総悟くんが居て、新八が居て神楽が居て、不幸なんて言ってちゃバチがあたっちまうだろーが」 銀時の言葉に、沖田はふふ、と笑って立ち上がった。 「そうですねィ。これからも、不幸だなんて俺が言わせやせんぜ」 少し照れ臭かったのか、ぷいっと沖田は銀時から眼を反らし、中途半端に開いていたカーテンを全開にした。 「総悟くんには適わねーなァ」 沖田はもう、銀時を遠くになど感じなかったし、苦しくなんかもなかった。 銀時ももう、不幸だ、などと思うこともないだろう。 明るい部屋に日差しが差し込んだ。 それは二人の間にある希望のようだった。 「そろそろ休憩終わるんで、仕事戻りまさァ」 「おう、行け行け」 「旦那も仕事してくだせェ」 「依頼来ねーんだって」 そんなやりとりをして笑い合ったら、世界中の幸せが今この瞬間に詰まっている気がした。 あんなに求めていた幸せ、なんて、涙を零さずとも血を流さずとも。 気付けばこんなに近くにあるものなのだ。 +++++++++++ この人たちは誰ですか? 誰か西川に教えてやって下さい。 去年の誕生日に金崎さんに誕生日プレゼントを頂いたので、お返しするぞ! と意気込んでリクを伺ったところ、愛が完全に空回りしてしまいました。 一応銀沖とか言ってみます。 銀さんが別人ですみません。 沖田さんがキャラ違っててすみません。 こんなブツを差し上げたらプレゼントというよりは却って嫌がらせのような気もプンプンしますが、どうぞ受け取ってやってくださいませ! 駄文の代わりに西川の愛だけは無駄に詰まってます。 それでは、大分遅くなってしまいましたが、お誕生日おめでとうございました! 西川柚子。
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