気持ちを伝える術を知らない


気が付けばいつも隣に居た男を、離したくないと思い始めたのはいつのことだったろう。
近藤さんに手ェ引かれて初めてアンタに逢ったとき、俺はまだ右も左もわかんねィ餓鬼だった。
そんな俺を物珍しそうに見つめたアンタの強い眼を、俺は今でも鮮明に覚えてまさァ。
俺が負けじと睨み返せば、アンタは笑って俺の頭を撫でましたねィ。
あの頃から、アンタには適わねェことばかりだ。
今思えば、最初に会ったその時から、俺たちの関係は出来上がってたのかもしれませんねィ。

「土方さん、馬鹿でもいい。気が狂れたと思ってもらっても構わねィんで、目ェ閉じて下せェ」
「いきなりどうしたんだよ、総悟」

この、深く考えるのも馬鹿らしい気持ちに気付いた時にはもう遅かった。
土方さんなしじゃ駄目だった。
俺は、これからしようとすることに土方さんが気付いてしまう前に、馬乗りになったまま、両手で土方さんの頬を挟み、勢いに任せて口付けた。
あの時より十も成長したのに、まだ右も左もわかんねィ餓鬼のままだ。
いつも頭を支配するこの気持ちに、名前を与えてやることすらできない。
この気持ちを言葉にする術すら知らない。
俺はゆっくりと唇を離し、急いで土方さんの上から降りてその場から逃げようとした……が、俺の手は呆気なく土方さんに掴まれてしまった。

「やり逃げたァ感心しねェなぁ、総悟」
「離して、下せェ……っ」
「嫌だ」

土方さんは、俺の手を引いて再び俺を自分の膝の上に戻すと、掴んだ俺の手を唇に寄せた。

「な……何、するんでさァ……!」
「好きなら、好きだって言いやがれ。この馬鹿総悟が」
「な……っ! 土方さんには言われたくありやせん」

ずっと考えが達するのを避けていた言葉をあっさり土方さんに言われてしまったことで、俺は動揺して土方さんの膝の上でじたばたともがく。
しかし土方さんは、そんな俺を簡単に腕の中に収めてしまった。
とても居た堪れなかった。
俺の気持ちを、土方さんが知っている。
でも、俺は土方さんの心ン中、何も知らねェや。
俺は悔しくなって、目の前にあった土方さんの首筋を思いっきり噛んでやった。

「痛ってぇ! 何しやがんだ!」
「土方さんが悪いんでしょう?」

俺がふふん、と得意げに笑えば、土方さんは心底悔しそうに自分の首筋をさする。
ひょいっと土方さんの膝の上から降り、首筋をさする手ごと首を引き寄せて、俺はもう一度土方さんに口付けた。

「好きだ、なんて。アンタの口から聞くまで言ってやりません」

初めて会ったときのことを、もう一度思い出した。
そういえばあの時俺は、撫でられた手を引っ張って噛んだんだった。
やっぱり俺は、今でもあの頃のままだ。

「総悟!」

身を翻し、部屋を後にしようとすると、土方さんが俺の背中に言葉を投げかける。

「好きだよ」

突然の告白に、俺はその場で腰を抜かしてしまった。
否、腰が砕けてしまった、と言った方が正しいかもしれない。

「言ってくれんだろ?」

すっかりと逆転してしまった形勢が悔しくて、俺は砕けた腰を引きずりつつ、腕の力だけで土方さんの元へ向かう。

「耳、貸して下せェ」
「ほらよ」

安心しきった土方さんが、簡単に俺に耳を差し出す。
俺は、愛の言葉を囁くふりをして、今度は耳たぶを噛んでやった。

「痛てェ……っ!」
「土方さんも、ちっとも成長しやせんねィ」
「余計なお世話だ」

馬鹿でいい。
気が狂れてたっていい。
気持ちを伝える術なんか最初からなかった。
たとえアンタが伝えてくれようとも、悔しいからまだ言ってやりやせん。
初めて出会った時から好きだっただなんて。



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