第三話 YOU WILL FALL IN LOVE WITH ME.







「土方さん、勉強教えて下せェ」
「ちょ、総悟ォ。トシだけ? 俺は? ねェ俺は?」
「すいやせん、近藤さん。俺だって土方さんに頼むのは癪ですが、この際背に腹はかえられないんでさァ」
「オイコラ。それが人に物を頼む態度かよ」

朝練が終わり、部室で防具を脱げば爽やかな風が三人の顔を撫でる。
噴き出した汗をタオルで拭い、制服に着替えたら、こもった熱でせっかく拭った汗がまた少し噴き出した。

「土方さん、お願いしまさァ」
「別に構わねェが、社会は山崎の方が得意だろ」
「勿論、頼むつもりでさァ。近藤さんはこれからも剣道の指導お願いしやす」

着替え終わった三人が部室から出ると、びゅうと強い風が吹きつけ、汗が引いて冷えた身体が少し震えた。

「そういや、どうしたんだ? 総悟が勉強教えろなんて、珍しいこともあるもんだ」

ようやく機嫌を直したらしい近藤が沖田に訊ねれば、沖田は少々茶化しながら答える。

「ちょっとやんごとなき理由で学年トップを取らなきゃならなくなったんでさァ」
「学年トップゥゥゥゥゥ!?」

沖田の信じられない言葉に、土方と近藤は声を合わせて驚く。

「オイオイ総悟、お前今席次いくつだ?」
「この前のテストでは320人中200位でしたが」
「こりゃ先は長いぞ」
「先? 次の期末で取らなきゃ意味ねィんで」
「そりゃァ無理だ。諦めろ」
「そりゃないだろトシ、せっかく総悟がやる気になってるんだ。応援してやらなきゃな」
「さっすが近藤さん」

校舎内に入れば、既にほとんどの生徒が登校しており、廊下には人が溢れている。
教室に入ると、朝練のないバドミントン部の山崎が三人に気付いて近寄ってきた。

「オイ山崎、総悟が学年トップを目指すんだとよ」
「えェェェェ!? 何でまた」
「ちょっと訳がありやして。山崎ィ、社会得意だろィ? 教えて下せェ」
「あ、ハイ」

その日の昼休憩から、3Zの生徒の面々は、休憩時間を惜しんでまで勉強する沖田、という信じられない光景を目にすることになる。
沖田が期末テストに向けて勉強を始めてから一週間が過ぎた。
予想外に真面目に勉強している沖田を見て、坂田は内心焦っていた。

「オイ沖田ァ、勉強するなとは言わねーが、あんまりし過ぎると身体に毒だぞ」
「心配してるんですかィ? それとも、心配してくれてるんですかィ?」

授業後、教室を出た坂田に質問しようとやって来た沖田に、坂田が忠告する。

「さァ、どうかな」

鎌をかけるような沖田の言葉に、坂田が曖昧な返事をすると、沖田は小さく溜息を吐いた。

「大人はズルいですねィ。自分の都合でしろって言ったり、するなって言ったり」
「そーだよ。お前みてーにそんなに真っ直ぐ動けねーの」
「俺は真っ直ぐなんかじゃないですぜ」

沖田は坂田の腕を掴んで、廊下にいる生徒たちから見えないように、階段と廊下の仕切りの壁の裏側に入る。

「いつも、先生にどうにかされたいって、思ってまさァ」

そう言って悪戯っぽく笑う沖田に、坂田は不覚にも惑わされる。
そんな坂田の様子を見て、沖田は満足げな顔をして笑う。
どうにかして坂田を揺らそうとする沖田、と。
生徒なんかに惑わされてたまるか、と態度を崩さない坂田。
相反する二人の気持ちは、繋がり合うより先に、弾き合うようにぶつかって灰になる。

「まァ、そんな大口叩くのはトップ取ってからにするこったな」
「後で後悔しても知りやせんぜ。俺なしじゃ生きていけないくらいにしてやりまさァ」

沖田はそう言って坂田の腕を引くと、坂田の耳たぶをがりりと噛んだ。

「ちょ、オイ! 何すんだ」

坂田が耳を押さえて怒鳴ると、沖田はふふんと鼻で笑って教室の方へ駆けて行った。

「ったく」

自分より一回り小さい沖田の背中を見て、坂田の心は少しだけ揺れた。








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