密室傷心事件
猿野は、僕の唇を親指でなぞった。 僕は、くすぐったくて思わず目を閉じた。 ゆっくりと眼を開けると、サングラス越しの猿野は泣いていた。 「どうして…泣くの?」 猿野の涙が、サングラスの上に落ちる。 ぼやけて、猿野の顔が歪んで見える。 何だか、僕の方も悲しくなってしまった。 「司馬は…何で平気なんだよ」 猿野はそれでも、僕の上で動くのをやめない。 どうして、そんなこと言うの? 「僕、どっか欠けてるみたい」 どうして、思ってもない言葉が出てくるんだろう。 大好きな人と一つになれて、僕は幸せなのに。 幸せなはずなのに。 例え、それがどんな方法でも。 律動に合わせて揺れる身体。 乱暴なそれは、内側から僕の身体を壊してしまいそうに激しい。 だけど、それを心地よいと思ってしまうのは。 僕を見ない目に胸が苦しくなるのは。 猿野の背中に爪を立てるのは。 貴方を好きでたまらない証拠。 嫌いになれない証。 僕の中に精を放つ猿野とほぼ同時に、僕も猿野の腹部に吐精した。 濁った色をしたそれは、何だか僕らの痛みを表しているようで、僕らはすぐに、眼を反らした。 猿野の頬に跡を残す涙の筋は、渇くことなくまだ、新しい筋を作り続ける。 「司馬ぁ、ごめんな」 僕は、泣きながら謝る猿野の手を取り、自分の頬にあてた。 「大丈夫、だよ」 僕が呟けば、猿野はその場に崩れるように、泣いた。 昼休憩後の空き教室。 差し込む秋の日差し。 偶然一緒になった僕と猿野は、何をするでもなくただ、しばらくぼんやりとその場に座っていた。 三階の隅、扉についた窓さえないその教室は、完全に学校から遮断されているようで、僕はこの場所が好きだった。 授業をサボるには、最適な場所だ。 「司馬」 突然、猿野が口を開く。 僕が猿野の方を向けば、淋しそうな顔で、笑う。 「聞いてくんねぇ?」 猿野の言葉に小さく頷いたら、猿野はまた、小さく笑った。 その笑顔に胸が痛くなる。 軋んで軋んで。 僕の想いの証が疼き続ける。 「オレさ、凪さんにフラれちゃった」 ズキン。 思いがけない猿野の言葉に僕は。 欠けている僕の心にも、ちゃんと痛みを感じる部分は存在するらしい、なんてことを、頭の隅で小さく思った。 今にも泣き出してしまいそうな猿野の顔は、僕の心を大きく取り乱させる。 猿野は小さく溜め息を吐いて、ついにその眼から涙を零す。 そんな顔をしないで。 そんな顔を見せないで。 そんな顔をさせないで。 猿野には、眩しいほどの笑顔が似合うのに。 気が付いたら僕は、猿野を抱き締めていた。 猿野の顔を自分の胸に押し付けて、必死で猿野の泣き顔を隠そうとしていた。 「司馬…?」 戸惑うように僕を呼ぶ猿野。 「泣か、ないで」 小さく呟いた瞬間、僕の天地は逆になった。 ぎこちなく唇が塞がれ、シャツの隙間から、熱くなった手が入ってきた。 豆だらけの猿野の手は、かさかさしていたけれど、だけど何故か、とても優しかった。 「司馬、悪りい」 僕の頬をなぞり、泣きながら零す。 「あやまらないで」 あぁ今この時を、否定なんかしないで。 なかったことになんて、しないで。 鳥居さんじゃなく僕を見て僕だけを見て僕の後ろに、鳥居さんを見ないで。 「し…」 「聞きたく、ないよ」 今度は僕が、猿野の頬をなぞる。 気休めなら言葉は要らない。 気休めにもならない言葉は要らない。 あぁ心が手に入らないのならば。 僕に出来る唯一を。 きっとまた、謝ろうとした猿野の唇を、僕は急いで塞いだ。 平気じゃないよ。 猿野が好きなだけ。 欠けてなんかないよ。 猿野だから、満たして欲しいだけ。 僕は、自分でつけた猿野の背中の傷に、堪らなく苦しくなって、泣いた。 勘違いした猿野が僕を抱き締めた。 噛み合わなくたっていい。 すれ違っててもいい。 だけど今はこのまま抱き締めていて。 今だけは、僕を愛しいと想って泣いて。 僕は、少し低い猿野の肩に顔を押し付けて、今までにないくらい、沢山泣いた。 +++++++++++ Space Magicの俵波留様へ相互御礼、猿馬エロです。 暗くてすみません…! てか意味わからない話ですみませんっ! 一応、事後、行為、事後。 みたいな時間の流れになってるんで…。 あわわ…! こんなもので良ければ、もらってやってくださいませ! では、相互リンクありがとうございました。 西川柚子。
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