涙よりも口付けを


「泣くな、笑え」

サングラスの下から涙を伝わせる葵ちゃんに一喝し、俺は自分の涙をぐいっと拭った。

「猿野が……泣くから」
「何で俺が泣いてるからって葵ちゃんが泣く必要があんだよ」
「だって、猿野が泣くと、僕も悲しいんだもん」
「あ゛ー!」

大声で叫んで立ち上がれば、葵ちゃんの身体がびくんと震えた。
俺はそれに構わず葵ちゃんに顔をぐいっと近付けた。

「いいか? 俺は葵ちゃんの涙なんかいらねー。そんなの、慰めにもなんねーよ」
「だったら、どうしたら泣き止んでくれるの?」

サングラスを取り上げ、俺はにやりと笑って葵ちゃんにキスをした。

「ほら、泣き止んだだろ?」
「それ……っ。ずるいよ」
「でも葵ちゃんも、涙引いてんじゃねーか」
「ほんとだ」

俺たちは、目を合わせてふふふ、と笑った。
こんな時のキスは、一緒に泣くよりずっとずっと健康的だ。








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