TRIGGER IS BIRTHDAY
言葉というものは、いざというときてんで役に立たないもので、旦那目の前にして立ちすくむ俺の、何の手助けもしちゃくれない。 目の前の人が、土方さんなら悪態吐くことだって出来るし。 山崎なら、おちょくることも出来る。 近藤さんになら、躊躇いなく好きだと言えるだろう(勿論、親愛の意味で、だけど)。 それがどうして、旦那の前じゃ、たった二文字の言葉も紡げやしない。 今日こそ言おうと決めていたのに。 今日なら言えると思ったのに。 「沖田君? 具合でも悪りーのか?」 「いえ、そういうわけじゃねーんです」 「どしたの? なんか、いつもと様子違うけど」 「旦那、自分で言うのもなんですが、今日誕生日なんです」 「そうなの? そりゃめでてーじゃねーか。何? プレゼント? ダメダメ、金ねーから」 顔の前で左右に手を振る旦那を見つめ、俺はバレないように深呼吸をする。 油断すると、すぐに喉の奥に引っ込みそうになる言葉を、押し出すように一言ずつ、発してゆく。 「プレゼントなんて、要りやせん。その代わり、俺が今から言うこと呑み込んだ上ですぐ忘れて下せェ」 今度は、俺が大きく深呼吸をすると、旦那はややこしいな、と呟いてからあァ、と頷いた。 心臓の音が身体中に響いて吐き気がする。 恋しく想う人に、ただ、好きだと言いたいだけなのに、どうしてこんなに難しくて、苦しくて、死にそうになんだろう。 「好き、なんでさァ。旦那のこと。男に恋愛感情抱くなんて、認めたくねーけど。そんでももう、この気持ちに背ェ向けらんねェ」 一度吐き出してしまうと、残りは案外するすると簡単に飛び出してくる。 しかし好きだと告げても、旦那の表情はぴくりとも変わらない。 「受け止めてくれなんて言いやせん。ただ、これからも今まで通りに接してくれればいい。言わずにいられなくて、すいやせん」 「オイオイ、こんなこと、忘れろっつーの?」 「勝手なこと言ってるってーのはわかってまさァ」 「忘れられるわけねーよ」 旦那はゆっくりと俺に近付くと、震える俺の頭を少々乱暴に撫でる。 「悪りーね、先に言わせちゃって」 「……え?」 「その代わり、最高のプレゼントをあげようじゃねーか」 何もかもがわけがわからずに、耳にかかる旦那の吐息に身体を震わせたら、もっと信じられないものが唇に触れた。 「旦那、今……何し……」 顔が一瞬にしてかーっと耳まで熱くなったのがわかり、上手く、旦那の顔が見られない。 「わかんねーなら、もう一回あげるけど?」 「ちょっ……待っ……、無理! 死ぬ!」 慌てまくる俺に、旦那は小さく溜め息を吐いて笑うと、もう一度俺の頭を撫でた。 「改めて、誕生日おめでとさん。俺も好きよ? 沖田君」 信じられない言葉に、思わず腰が抜けた。 言葉というものは、やっぱりいざというとき何の役にも立ちゃしない。 旦那の嬉しすぎる言葉に、胸いっぱいで何一つ返せないなんて。
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