HAPPY BIRTHDAY!






これから誕生日を迎えようとする夜、沖田が自分の部屋で寝る準備をしていたら、突然こんこん、と襖をノックする音が聞こえた。

「誰ですかィ?」

こんな遅くに、と心の中で思って沖田が返事をすれば、俺だが、と近藤の申し訳なさそうな声が返ってくる。

「どうしたんですかィ? 入って下せェ」
「今、何時だ?」
「11時55分でさァ」
「おぉ、良かった。間に合ったようだな」

近藤は満足気に笑うと、襖の後ろから、白い箱を持ってくる。
机の上に箱を置き、近藤は沖田の向かいに腰を降ろす。
こめかみに浮かぶ汗と、つん、と香るお酒の臭いに、何かを切り上げて急いで帰ってきてくれたことがわかり、沖田の胸を締め付ける。

「近藤さん、それってもしかして」
「あぁ、誕生日と言ったらケーキだろう。カウントダウンしよう。総悟」

近藤が白い箱の蓋を開けると、ふわ、と部屋中に甘い香りが広がる。
沖田が部屋の時計にちらり、と目をやると、時計の針は11時58分をさしていた。

「10秒前からな」
「へい」
「ケーキ、美味そうですねィ」
「あぁ、奮発したからな」
「ありがとうございやす」
「総悟が素直に礼言うなんて、珍しいな」
「俺だって嬉しい時くらい素直になりまさァ」
「お、あと30秒だぞ」

かち、かち、と動く秒針を見つめ、10秒前になるのを待つ。
生クリームといちごでデコレイトされ、チョコレートに総悟誕生日おめでとう、と書かれたケーキを見て、沖田は近藤にばれないように少しだけ微笑む。
秒針が7月8日まで残り10秒だと伝えると、二人は声を揃えてカウントダウンを始める。

「10,9,8,7,6,5,4,3,2,1」

0、と言い終えると同時に、二人は目を合わせてにんまりと笑う。

「総悟、誕生日おめでとう」
「ありがとうございやす」

ケーキにろうそくを立て、火を消し、部屋の明かりを消したら、室内は一気に幻想的な雰囲気に変わる。
消すの勿体ねェや、と沖田が一息で火を消すと、近藤は心底幸せそうにぱちぱちと手を鳴らす。

「総悟も19か。早いもんだな」

明かりをつけ、感慨深そうに近藤がケーキを取り分けながら呟く。

「そうですねィ。まだ実感は湧きやせんが」
「総悟がこんなに立派に育ってくれるなんてなァ」
「そういえば近藤さん、何か用事があったんじゃないんですかィ?」
「用事?」
「いや、酒の臭いするし、急いで帰ってきたみたいなんで」
「あァ。接待だったんだが上手いことごまかして帰ってきた」
「大丈夫なんですかィ? こんなに早く祝ってくれなくても、良かったんですぜ?」
「いいんだ。俺が一番に言いたかっただけだから。それに、総悟の誕生日より大事な予定なんてあるわけないだろう?」

やばい、泣きそ。
沖田はずずず、と鼻をすすり上げると、近藤の腕に顔を押し付ける。

「近藤さん、すげェや」
「どうした? いきなり」
「何でそんな、俺の欲しい言葉ばっかくれんの?」
「そんなこと言われてもなぁ」
「俺今、近藤さんのこと好きで良かったってすげぇ思いやした」

腕に顔を押し付けたままだからこそ言えた台詞が、近藤の胸をじんわりと暖かくする。
耳まで赤く染まった顔を隠そうと、更に自分の腕に顔を押し付ける沖田が愛しすぎて、近藤は思わず沖田を強く抱き締めた。

「総悟、誕生日ってのはなァ、祝った人を嬉しくさせる日じゃないんだぞ?」
「わかってまさァ」
「これ以上俺を喜ばせても、ケーキしか用意してないから何も出せないぞ?」
「十分でさァ」

切り分けたまま、手を付けていないケーキがバランスを崩して皿の上で倒れる。
ころん、とテーブルの上にいちごが転がると、沖田はそれを抱き締められたまま手を伸ばして頬張った。

「近藤さん」
「どうした?」
「世界で一番美味い」
「だから、俺を喜ばせてどうするんだ」
「大丈夫でさァ。絶対俺の方が喜んでやす」

どうしてもにやけてしまう顔を押し殺して沖田が近藤を見ると、近藤は見てるこっちが幸せになってしまうほどの笑顔を返してくれる。
最高の誕生日プレゼントを貰ってしまった。
沖田はこっそり思うと、今度は近藤の胸に顔を押し付けた。






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