期待してもいいの?






誕生日だからって、余計な期待を抱くのが間違いだということはわかっている。
しかし、ほんの少しでも、欠片でも。
期待してしまうのが世の中の常って物じゃあありやせんか。
だから俺は、そのほんの少しの期待を込めて。

「今日って何の日かわかりやす?」

今日も飽きずにミントンをしている山崎を呼び止めて問う。
答えられなかったら死刑、なんて心の中で思いながら、少しの期待と不安を抱いて返事を待つ。

「今日ですか? 七夕は昨日終わったし、質屋の日?」
「山崎死刑」
「スイマセン! 冗談が過ぎました!」

チャキン、と刀を抜いて睨めば、山崎が慌てて訂正する。

「誕生日おめでとうございます」

その一言に心撃ち抜かれて、言葉忘れて立ちすくんでしまった。

「沖田隊長? どうしたんですか?」
「何でもありやせん」

山崎なんかに、不意を突かれてしまった。
ほんの少しの期待は、小さな嬉しさに昇華して、俺の心を満たす。
その一言が聞きたかっただけなんて言えるはずもなく、怪訝そうな顔をして山崎が俺の顔を覗き込んでも、俺はなす術もなく立ち尽くすほかない。

「すいません、昨日まで潜伏してたので何も用意出来なかったんですけど」
「はなから山崎には期待してねェや」
「あ、まぁそうですよね」

悲しそうな顔をする山崎に、天邪鬼な自分に心底嫌気が差した。
そんなことが言いたいんじゃない。
誕生日だからって、勇気を貰えている気がするだなんて、途方もない見当違いだということはわかっている。
でも今日くらい、本当の気持ちを伝えなければいったい俺に次いつ言う機会があるというのだろう。

「おめでとうっていう言葉だけで十分でさァ」
「え……? 何か今、信じられない言葉が聞こえたような……」
「もう言いやせん」

山崎は、ふふふ、と笑い、ちょっと待ってて下さいねと言い残すと、屯所の中へ走り去る。
しばらくして、はぁはぁと息を切らして戻ってきた山崎が、はい、と俺に紙切れを渡した。

「何ですかィ? コレ」
「この前貰ったレストランの割引券です」
「これがプレゼントなら貰わない方がマシですぜ?」
「違うんです! 俺が奢りますから、食べに行きましょう! それの約束ってことで。あ、やばい。そろそろ行かなきゃ」

俺に割引券を託して、去った山崎の背中を見送ると、顔が自然ににやけてくる。
不器用な誘い方が愛しくて、嬉しすぎるから。
今日のために下見して貰った券だなんて言えない、なんて情けない独り言は、聞かなかったことにしてやりまさァ。





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