空と思い出


風が、髪を揺らす。
青い空を見上げ、司馬は、自分がその空に同化してしまわないようにしっかり目を見開いた。
サングラスの下の目は真っ直ぐな眼差し。
決意の印。
強い想いの証。


そわそわと落ち着かない雰囲気の教室で、猿野はぼんやり司馬の姿を見つめていた。
空を見上げる司馬につられるように空を見れば、猿野はあまりの眩しさに目がくらむ。
真っ青な、空。
再び視線をおろせば、司馬はもう居ない。
猿野は一瞬、司馬が空に溶けてしまったのかと思ったけれど、
そんなワケねーか、と苦笑し、視線を教室に戻す。
沢松は、居ない。
今日は、卒業式。
通い慣れた校舎を離れ自らの道へと旅立つ日。
猿野は、司馬の進路を知らない。
司馬も、猿野の進路を知らない。
同じ部活の2人の関係は、近いようで遠い。
猿野が司馬はどこ行くんだろ、なんてことを考えていると、
どこからか戻ってきた沢松が廊下から猿野を手招きした。

「あ、司馬…」
「話があんだってよ」

そう言い残すと、沢松は教室に戻る。

「さっき、司馬見てたから、いきなり来てビビった」

猿野は、司馬の突然の訪問を不思議に思いつつ、少し笑う。
司馬も、笑い返す。
すると司馬は、猿野の袖を引き、突然歩き出した。

「どうしたんだ?」

猿野が訊いても、司馬は何も答えない。
猿野は、まぁ答えるワケねぇよな〜なんて思いつつ、司馬の後について歩く。
校舎の外を出て、グラウンドの方へと向かう2人。
太陽の光が当たった青い髪が、キラキラと光り、キレイだなと猿野は思った。
司馬はグラウンドの隅で、止まった。
そういえば司馬は話があるんだっけ。
喋んねーのに、どうやって話すんだ?

「なぁ司…」

猿野が話しかけようとしたら、司馬は大きく深呼吸をした。

「お礼をね…言いたかったんだ。ここで」

司馬は目を閉じて、青い空に弧を描く白球を思う。

「え?礼?オレ何かしたっけ?つーか司馬喋って…」

戸惑う猿野。
司馬は少し微笑んで、そんな猿野を見る。

「3年間…猿野のおかげで…楽しかったから…ありがとう」

一度だけ届いた甲子園も。
皆とグラウンドで泣いたときも。
先輩達が卒業していったときも。
いつも、その中心には猿野が居た。

「ンな礼言われるようなことしてねーよ。オレだって、司馬が居て楽しかったしな〜」

今となっては、大切な思い出となった出来事が、色鮮やかに司馬の脳裏に蘇る。

「まさか…猿野が部長になるなんて…思わなかった…」
「司馬だって、あの喋らねー先輩怖いとか言われてたぞ?」
「…うそ!?猿野も…あの部長…無茶苦茶だとか…言われてたよ」

2人は、涙が出そうになるのを堪えるように笑いながら喋る。

「まぁな〜でもオレ結構まとめれてただろ?」
「うん…いい部長だった」
「はは…」
「………」

その沈黙をきっかけに2人の目から、ほぼ同時に涙が零れた。

「もう、終わりなんだよな」
「…だね」
「こーやってバカな話すんのも、最後かもな」
「…うん」
「オレさ、今までいい加減だったけど、野球始めて何か変われた気すんだよな〜」
「僕…も、皆と、猿野と出会えて…変われた気がする」

猿野は乱暴に自分の涙を拭うと、司馬のサングラスを外し、司馬の涙も拭ってやった。

「十二支に来て、良かったよな」
「うん、十二支で…良かった」

2人はそう言って、微笑み合う。

「てゆーか何2人で盛り上がっちゃってんの?」
「ずるいっすよ!!」
「とりあえず、オレ達も混ぜろ」
「まったくですよ」

後ろから聞こえた声に振り返れば、兎丸、子津、犬飼、辰羅川の姿。

「お前ら!!何で!?」
「…皆」
「ちょっと兄ちゃん!!何シバくん泣かしてんの?」
「プ…バカ猿泣いてやがる」
「だ〜!!うるせ〜どうせ6人集まったんだし野球やろーぜ」
「足りないっすよ!!」「そんなのどうにかなるでしょ」
「卒業式…は?」
「とりあえず、サボれ」
「倉庫の鍵は任せて下さい」

辰羅川がピンで倉庫のドアを開け、道具を取り出す。
皆泣いていたが、そんなことには構わず、ゲームを始めた。

「最初はオレは打つ!!皆守備につけ〜」

猿野がバッターボックスに立つと、犬飼がマウンドに上がる。
辰羅川はキャッチャー司馬、兎丸、子津は適当にグラウンドに散らばった。
いつの間にかグラウンドの周りには人が集まり、元野球部員達が

「オレ達も混ぜろ」

となだれ込んできた。
そんな中、猿野は大きく息を吸い、バットを青い空に掲げた。

「おぉ〜!!」

周囲から歓声が上がる。

「司馬ぁ!!お前の為に打つ」
「……っ!?」
「とりあえず、誰が打たせるか」

犬飼が球を投げると、白い球は空に弧を描いた。
どんどんと距離を増し球はフェンスを越えた猿野はニヤッと笑い、ホームを踏むと、司馬の手を掴む。

「後は皆様御自由に」

そう言い残し、猿野は司馬を連れ、走る。

「オレのことは、思い出になんかさせねーから」

その言葉に、司馬は繋いだ手にぎゅっと力を込めた。














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猿野くんと司馬くんの間には、いつ恋愛感情が芽生えたんですかねぇ。
西川にはわかりません。





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