おんなじ
ねぇ、僕ら
一体いつまで一緒に居られるかなぁ?
こんなままじゃきっと、離れるより先に、壊れてしまうよね。
身体中にキズ付け合って。
それでも傷跡舐め合うように漂ってたい。
いつまでも。
いつまでも。
今日も、僕は泣いた。
芭唐は隣に居るのに。
淋しくて、泣いた。
「芭唐ぁ」
掠れきった声で名前を呼ぶ。
突然の口付けに、唇の端が切れた。
もう何日家に帰ってないんだろう。
わからないくらいきっとずっと昔で。
遥か彼方にぼんやりと、高校へ行っていた頃の記憶が蘇る。
「何考えてんだよ?」
「…わかんない」
芭唐は、僕の顎を伝う血を舐める。
そのまま僕は、芭唐の頭を抱き締めて、自分の方へ、引き倒した。
芭唐と居るのは、つらい。
僕らは途方もなく、保証もない世界を見てるから。
同じ過ぎて、つらい。
「泣くなや、うぜーな」
「…だって」
僕を責める芭唐の瞳にもおんなじ涙の筋。
ほらやっぱり、また同じ。
僕の涙を強引に手で拭い、昨日付けた胸の傷に舌を這わせる。
傷のせいか、敏感になってるらしいソコは、芭唐が離れると、
うっすらと赤く染まった。
「血の味がする」
「そりゃそうだよ」
僕は芭唐の服を脱がせて、僕と同じところについている傷に、舌を這わせた。
「芭唐も、血の味」
「あぁ、そうだな」
そしてそのまま芭唐は僕を愛撫して。
僕らは一つになって。
飛んで。
離れて。
また泣いた。
夢とうつつの境目で、僕らはいつも、二人で彷徨ってる。
近くに転がってるカッターで、芭唐の腕にキズを付ける。
滴り出す血を舌でせき止めて。
血まみれの口で笑う。
泣きながら、笑って。
嬉しいのか悲しいのかわかんなくなって。
感情の境目が、だんだん消えてゆく。
芭唐は、僕の腿にカッターを滑らせた。
一瞬で赤く、染まるソコ。
見慣れた赤が視界を止める。
芭唐の指が僕の腿を滑り、お腹、胸、首筋、顔。
僕の全てが赤く染まってく。
「オレの色だからよ」
芭唐も泣きながら笑って、言った。
「…染めて、いいよ」
「あぁ、わかってる」
深く切り過ぎたのか、どくどくと腿からは血が溢れ出す。
シーツを染める。
芭唐の顔が、歪む。
きっと、僕の顔も歪んでるんだろう。
ジンジンと痛む傷跡を指でなぞると、指先が真っ赤に染まった。
「芭唐、赤いよ」
芭唐は何も答えずに、僕の指先を舐めた。
ゾクゾクっと背筋に電流が走り、芭唐が何より愛しく思えて、
憎らしくも思えた。
こんなに、しないで。
「んっ…」
丹念に僕の指を舌が這って、思わず声が漏れる。
僕をこんなにするの、芭唐だけだから。
嫌だ嫌だ嫌だ。
芭唐の腕をぎゅっと握って、芭唐の血が僕の手に、べっとりとついた。
混ざる、僕たちの血。
目が合ったかと思えば口付けて、もう、今日何度目かもわからない営みが始まった。
強引で乱暴な芭唐と。
無機質で無抵抗の僕。
ガリガリと背中に爪を立てて。
芭唐は僕の首筋に噛み付いて。
どんどんどんどん、僕らは赤く汚れてゆく。
綺麗なものなんて、見たくないから。
綺麗なものなんて、欲しくないから。
精一杯汚れて、汚して。僕は芭唐色に。芭唐は僕色に。染まりたくて染まれなくて。
あぁただ一つになりたいだけなのに。
おんなじようで違う僕らはやっぱり、一個にはなれない。
「いっこに、なりたいんだよ」
そうだ、別々だから悲しいんだ。
どうして僕たちは、二人じゃなきゃ駄目なのに、決して一つにはなれないんだろう。
止血もせずに交わったせいで、行為が終わったら僕たちは血まみれだった。
シーツにも枕にも赤、赤、赤。
床にも血しぶきが飛んでいる。
僕は、芭唐の顔についた血を舐めた。
芭唐も、僕の顔についた血を舐める。
また、僕らは涙を零す。
こんな時間が愛しくて愛しくて。
それでも僕ら、同じものじゃないことがもどかしくて苦しかった。
「葵…」
芭唐が呟いて、僕の肩に顔を埋める。
「ばから…」
「オレ達、どーせ死ぬまでこうだよな」
「…死んでも変わんないよ」
「ま、そーか」
頭が痛い。
血が足りないせいか、視界が霞む。
僕らはそろそろと手を動かして、しっかりと指を絡めた。
「死んでみるか?」
「んー、やめとく」
「…そっか」
悲しいほどに簡潔な会話。
それが僕達の最後の会話。
結局いっこにはなれなかったけど。
最期までこの指は絡まっていた。
最後まで僕らは触れ合っていた。
最期まで僕らは、おんなじだった。
END
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えー…意味がわかりません。
とにかく痛くしよう!!と、思って書いていたのですが、
痛々しいだけの話になってしまいました。
もっと退廃的な感じにしたかったんですけどねぇ。
またリベンジしたいです。
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