抱えきれなかった落とし物
「ヅラ、悪ィな」 「どうしたんだいきなり。お前らしくもない」 坂田は、隣に横たわる桂の黒髪をしゃらしゃらと触りながら小さく呟いた。 汗を掻いたせいか、急激に奪われる体温に二人は更に深く布団の中に潜り込む。 窓の向こうで、びゅうびゅうと強い風が吹いているのが聞こえる。 江戸の町に、冬が近付いている。 いつだったか、たった二人で天人の組織に切り込んだときも、こんな風の強い夜だった、と坂田は思い出す。 あの頃は二人、背中合わせで戦っていた。 桂の身に危険が迫れば坂田が守り、坂田の隙を桂が埋めた。 でも、今は違う。 守りたい人が増えすぎてしまった。 こんな自分にも、家族と呼べるものが出来てしまった。 「俺ァもう、お前を守れねェ。この手に抱えてるモンが重すぎんだ」 「生憎だが銀時、俺はわざわざ貴様に守られなくても、自分の身くらい自分で守れるようになったつもりだが?」 「そうか。それもそうだな。あれからもう随分経ったしなァ」 自分で守れない、と言ったくせに、桂の返事にどこか淋しそうな言葉を返す坂田に、桂はくすりと小さく笑った。 「俺もお前も年を取ったよ。生きていれば、抱えていられるものも、抱え切れなかったものもあるだろう」 どこかに隙間が出来ているのか、漏れてくる冷たい風に二人は身震いする。 桂は立ち上がって布団の周りに散らかっていた衣類を纏った。 「抱え切れなくても、俺もお前も立派に歩けるんだ。だから一緒に歩けばいいだろう。違うか?」 「違うな」 「違うのか。それならば仕方がない」 桂はフン、と鼻で笑うと特に坂田の言葉を気にするでもなく、風の元を探して部屋を歩き回る。 「オイ」 「何だ」 それが気に入らない坂田が桂を呼ぶと、桂は艶やかな髪を揺らして振り返った。 「訊かねーのかよ、理由とか」 「訊いて欲しいのなら訊いてやる」 「じゃあ言ってやらァ」 坂田は立ち上がると桂を後ろから抱き締め、長い髪に顔を埋めた。 「俺は嫌なワケ、そーゆーの。全部抱えてーの。残念ながら容量足んねーけど」 「じゃあ、俺が抱えてやろう。お前一人くらいの空きならあるからな」 「それはそれは頼もしいことで」 「それより銀時、寒くないのか?」 桂は坂田の腕の中から抜け出し、ようやく見つけ出した窓の隙間をぴっちりと閉めた。 「寒い」 下着一枚で布団を出ていたことに気付いた銀時は、大きなくしゃみをして小さく笑った。
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