音のない唄
「司馬、さっき何か歌ったか?」 犬飼が訊ねると、司馬はふるふると小さく首を横に振る。 「そうか」 我ながらおかしなことを聞いたものだ、と犬飼は思う。 未だかつて、司馬が自分の前で声を発したことなどないというのに。 犬飼が考えあぐねていると、司馬がゆっくりと距離を詰めて身体を寄せてくる。 ソファーがぎしりと音を立てた。 犬飼の心臓も、音を立てる。 するとまた、微かにどこかから唄が聴こえる。 「司馬、お前やっぱ……」 歌ってるだろ? と言おうとした犬飼が司馬の方を見ると、司馬は不思議そうに首を傾げ、小さく笑う。 「あー何でもねぇ」 犬飼は、瞬時に理解した。 歌っているのは司馬ではなく、司馬と居て幸せな自分の心だということを。
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