三文字
「犬飼…」
「…とりあえず、何だ?」
「あの…ね」
僕は、大きく深呼吸をしてギュ、っと目をつぶった。
強く強く握った手が、ふるふると震えて、汗をかいて、熱い。
「…司馬?」
犬飼が、戸惑いがちに僕を呼ぶ。
だけど僕は、何も言えなくて。
せっかく絞り出した声を無駄にするかのように、俯いた。
「…とりあえず、どうかしたのか?」
犬飼の声と、放課後のざわめき。
あと少しで、部活が始まってしまうのに。
僕の喉は一向に震えない。
犬飼が一歩、僕の方に近づく。
「司馬?」
低い声が、僕を呼ぶ。
言わなきゃ。
伝えなきゃ。
このために、呼んだんだから。
「いぬ…かい」
「あぁ」
「あの…ね」
俯いていた顔をぐいっと上げて、サングラス越しに犬飼を見る。
いつもと変わらない、強い眼や、目元のほくろは、やっぱり僕の大好きなそれで。
「…すき」
呆気ないほど簡単に、僕の喉を震わせてくれた。
だんだんと、遠くなってゆく放課後の音と。
その代わりにやってくる、部活が始まりかける音。
そんな音に包まれながら僕は、犬飼の言葉にくらくらと酔い痴れた。
「オレも」
だなんて。
たった三文字に。
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