殺意と狂気


「アンタを殺していいですか?」

上がりきった息と、上気した頬で沖田は必死に言葉を紡ぐ。
自分でも嫌になるほど細い腕で坂田の首に手をかけたら、坂田は何も答えずにその手を掴んで唇を寄せた。

「おっかないこと言うね、総悟くんは」
「かわさねーで下せェ」

坂田は沖田の言葉に構うことなく、律動を続ける。

「あっ、や……は、んんっ」

坂田が沖田の内壁を抉る度、荒い呼吸は嬌声に変わり、沖田の頬が更に羞恥心で赤く染まる。

「この状態で、殺せるもんなら殺してみれば?」

坂田が掴んでいる沖田の足がビクンと震え、決して心地が良いとは言えない薄い敷布団の上で、沖田の身体が淫らにしなる。
伸ばした手が、更なる快感によってぱたりと地面に落ちた。

「は、……んっ。旦那は……ずるい、です……ぜ。あ、あぁっ……!」

落ちた手がシーツをぎゅうっと握り締め、坂田は更に深く沖田の中をかき乱す。
薄い闇の中で、沖田の眼が猫みたいに光ったように見えた。
そしてその眼は、自分を睨んでいるような気がした。

「何が?」

しかし沖田は、坂田の問い掛けには答えることなく、そのまま絶頂に達してしまった。
隣ですやすやと寝息を立てる坂田を横目に、沖田はぼんやりと宙を見つめる。
ついさっき、殺してもいいか?と聞いたはずなのに、呑気に隣で眠る坂田を羨ましいと思った。
自分は狂っているのかもしれない、と沖田は思う。
本来加虐嗜好の自分が、よりにもよって男なんかに簡単に組み伏せられ、それを喜んでいるなんておかしいことだ。
こんな姿を、自分を知っている誰かが見たとしたら、ついに気が狂れたか、と思われてしまうかもしれない。
しかし暗闇で鈍く光る銀色の髪や、自分に向けて伸びる手、低い声、覇気のない瞳、その他全部に自分が反応してしまう事実が沖田の想いを物語っていた。

「旦那は、ずるいですぜ」

沖田は、言えなかった言葉を眠る坂田に向けて呟く。

「俺をこんなにして。どう責任とってくれる気ですかィ?」

眠っている坂田の頬をつねりながら、沖田はふふふと笑う。
しかしその瞬間、ドクンと沖田の心臓が波打った。
確かに感じる自分の中の殺意に、沖田はぶるぶると身震いする。
いつだったか、殺したいほど愛してるんでさァと言ったら一笑に付されたことを思い出した。
冗談ではない。
繋ぎとめるための下らない嘘でもない。
自分でも持て余している大きな闇。
沖田は、坂田の頬にやっていた手をゆっくりと下に下ろしてゆく。
そして、骨ばった首に辿りついた所で、もう片方の手をそこに添えた。
誰か。
誰か助けて止めて。
救いを求めるのは、狂気の自分。
坂田を愛する自分自身。

「はぁ、はぁ、は……」

沖田は、いつの間にか乱れていた呼吸を正しながら、ゆっくりと手を引っ込めた。
良かった。
良かったまだ。
狂気の方が勝っている。








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