月明かりの下
「何してんだ?」 「月、見てるんでさァ」 沖田の背中が何故だかいつもより小さく見えて、近藤は思わずその背中に問い掛ける。 すぐに返ってきた沖田らしくない答えに、近藤は小さく笑って沖田の隣に座る。 「そうか、月かァ」 近藤が、ぽん、と沖田の頭に手を乗せると、沖田は近藤の肩にぽすんと頭を乗せた。 「近藤さんが、俺をここに連れてきてくれたときのこと、思い出してやした」 「覚えてるか? 総悟。あの日も満月だった」 「忘れられるわけ、ないでしょう」 夜空には、満天の星。 真ん丸の月。 「あん時も、俺はこの手に助けられたんでさァ」 「今も、淋しいか?」 近藤は、沖田をここに連れてきた夜、沖田がホームシックになってしまい、同じ場所で泣いていた時のことを思い出す。 小さな肩を震わせて泣くその後ろ姿に、沖田のこれからを思って不安になったものだった。 「秋はいけやせんねィ。夜が長くて、つい感傷的になっちまいまさァ。でも今は、やるべきことが見えてやすから淋しくなんかねィですよ?」 「総悟が立派に育ってくれて、俺ァ嬉しいよ」 「近藤さんも、居ることですしねィ」 「こんな可愛いこと言うようになるだなんて、思ってもみなかったけどな」 「俺だって、まさかこんなことになるだなんて」 二人はくくく、と笑い合って触れるだけのキスをした。 月明かりの下交わしたキスは、いつもと違う感触がした。
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