揺れる音
今日は2月14日
僕は今、部活を休んで華武高の校門前に居る
鞄の中には、チョコレート
普通、バレンタインって物は、女の子が男にチョコレートを渡す日だ
勿論、そんなことはわかってる
僕は正真正銘の男だけど
彼に抱き締められたい、とか、
その手で滅茶苦茶にされたい、とか、
思ってしまう僕は、やっぱり今日チョコを渡すのが正しいのかなぁ、なんて
そう思って今日、僕はここに居る
御柳くんが、今日部活に来てるのかもわからない
そもそも、今日野球部の部活があるかもわからない
でも、それならそれでいい気もした
昨日、何時間もかけて選んだチョコも、本気で渡すつもりはないのかもしれない
好きだ、という気持ちが押さえられなくて
どうにか鎮めようとここに居るのだから
僕は、ふぅと溜め息をつく
2月の風は、薄着の僕には冷たすぎて、身体が震える
現在、午後4時30分
そろそろ部活が終わってもいい頃だ
しばらくすると、校門の方へ野球部らしき人達が向かってきた
その中には、見覚えのある人達も居た
僕を不思議そうにジロジロ眺めながらも、通りすぎてゆく
僕の視線は、ますます下がる
すると突然、
「アンタ、十二支の…」
上から声がした
あぁ、彼の声だ
一瞬でわかってしまう自分が憎い
僕は、彼…御柳くんの方を向く
「何してんの?こんなトコで」
「あ……その…」
「誰かに用あるとか?それなら呼んでくるし」
少し大きな御柳くんの声に、華武の部員たちが集まってくる
僕は、沢山の人に囲まれてることと、御柳くんが話しかけてくれたということでパニックになってしまって
御柳くんの、服の裾を掴んだ
「ん?オレ?」
僕は、御柳くんの服を掴んだまま、走った
「オイ?どーしたんだよ?」
何も答えず、ただ校舎内を走り続ける
そして、誰も居ない裏庭らしき場所で、僕は立ち止まった
僕らは、少しだけ息を切らして見つめ合う
御柳くんは、不思議そうな顔で僕を見てる
僕は、その視線に負けそうで
「あの………」
だけど、それじゃダメだ、と思い直し声を発する
「何だよ?」
冷たい声が、決心を揺るがすけれど
「これ…」
僕は、それを振り切って鞄からチョコレートを出した
「…え?」
戸惑う、御柳くんの声
当然だ
いきなりバレンタインに男からチョコを貰うだなんて、気持ち悪いに決まってる
僕は、いたたまれなくなって御柳くんに背を向けた
やっぱり、渡さない方が良かったんだ
今更そんなこと思っても遅いけれど
僕は御柳くんに背を向けたまま、トボトボと歩き出した
すると、
「オイ」
御柳くんが、僕に声をかけた
「コレ……」
「あの…今日のことは…忘れて?」
僕は、振り返って答える
「何で?」
「だって…御柳くんも、嫌…でしょ?」
あぁもう何だか、自分で言ってて泣きそうになってくる
こんな自分が嫌だから、彼を好きになったはずなのに
抱き締められたいとか、滅茶苦茶にされたいとか
そんなの全部後付けだ
僕はただ、彼が眩しかっただけ
眩しくて、眩しくて眩しくて
御柳くんを見てると、自分がどんどん小さくなってしまうような気がして
このまま溶けてしまえばいいと、何度も思った
彼は、違う世界の人
例え僕が、死んでしまいそうなほど御柳くんが好きでも
「ごめんなさい。いきなりこんな、こと…」
僕は、再び御柳くんに背を向ける
涙が出そうになったから、グッと堪えた
「揺れたのに?」
「え?」
聞き間違いだ、きっとそうに決まってる
「オレ正直、アンタの名前も覚えてねーけど。揺れた」
「な…何が?」
「聴こえるっしょ?オレの音」
僕は、引き寄せられ、御柳くんの胸に耳が当たる
そこには、驚くほど速い心音
「あ……えっ……?」
もう、訳が分からない
「ぷっ。顔、真っ赤」
「え?……あの………」
「チョコ、本命?」
(こくこくっ)
御柳くんの質問に、僕はどうにか頷いた
「そりゃ良かった。とりあえず、名前教えろや」
「司馬、葵」
「これからヨロシクな。葵」
「ぇえ〜っ!?」
さっきの御柳くんの音より、数段速い心音を感じながら僕は、
揺れる視界で御柳くんを見つめた
++++++++++
200Hit記念の切ないバレンタイン柳馬です
さららあらら様にささげます
う〜ん何だか全然切なくない気がします…すみません
訳が分からないのは西川の頭だということで、こんな物で良かったら、貰ってやって下さい
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