疫病神と天使


今日はついに、葵と初めてのデートだ。
墨蓮は張り切っていた。
やっと合った、華武と十二支の部活の休み。
今までは、部活が終わってから少し会って話すくらいで、物足りなかった。
だけど、ついに今日は一日中一緒に居れる。
そんな幸せが、墨蓮の足を急がせる。
待ち合わせ場所に行くと、司馬は既に着いており、墨蓮に小さく手を振った。
可愛いぃ〜vV
墨蓮は、満面の笑みを浮かべ、司馬の元へ走り寄った。

「ゴメンね。待った?」
(ふるふる)
「来た…ばかりだよ」
「良かった。じゃあ、行こっか」

墨蓮はそう言うと、さりげなく司馬の手を取った。

「!?……」
「あ…ごめんね。嫌だった?」
(ふるふる)

首を横に振った司馬が墨蓮の手を弱く握り返したその時だった。

「すーみれーんちゃんvV」

疫病神の、登場だ。

「げっ!!御柳!?」

墨蓮は、守るように司馬の前に立ちはだかった。

「何もしねーって。失礼なヤツι」
「で、何の用?」

墨蓮は、心底嫌そうに御柳に尋ねる。
そして、今もまだ司馬の前には立ちはだかったままだ。

「別に〜ヒマだし。墨蓮と葵が見えたし」
「名前で呼ぶな!!」

墨蓮は、更に司馬と共に御柳から離れる。
しかし、御柳はすぅっと司馬の後ろへ回り、自分の方を向かせて言った。

「お〜やっぱ近くで見るとすっげぇカワイイvV」
「……」

腕を掴まれたまま、至近距離でそんなことを言われ、司馬は戸惑ってしまう。

「おい、何やってんだよ!!」

2人の手を掴み、離れさせると、墨蓮は御柳に向かってゆく。

「冗〜談だよ。冗談。親友の墨蓮ちゃんの恋人にンなことするワケね〜っしょ?」

御柳は、そう言いながらも司馬をきつく抱き締める。

「あ゛ぁ〜!!!!!!!!」

オレすらまだ抱き締めてないのに!!
心の中で叫びながら、墨蓮は司馬から御柳を力一杯引き剥がした。

「葵、絶っっっっっ対コイツの近くに行っちゃダメだからね!!」
「ンな冷てーこと言うなや墨蓮ちゃん」

御柳は墨蓮の肩に手を置く。

「その呼び方は止めろ」

墨蓮は、その手を振り払う。

「…クスクス」

すると、2人のやりとりを見ていた司馬が、急に笑い出した。

「どうかした?」

墨蓮が尋ねると、司馬はおかしそうに答えた。

「2人って…仲いいんだね」
「どこがっ」
「だろ〜?」

ピッタリと重なる互いの正反対な意見。
すると司馬は、また笑う。
その笑顔は、正に天使のスマイル。
あまりの可愛さに、墨蓮と御柳の時間が止まる。

「…どうしたの?」

自分を見つめ、動かない2人に、司馬は不思議そうに訊ねた。

「葵!!お前想像以上だわ。ヤベー、オレ惚れそうvV」

これ以上コイツに葵の可愛さを見せたらヤバい!!
そう判断した墨蓮は、

「あ、ヤバ。もうすぐ映画の上映時間だ。行こ、葵」
「え?」
「じゃーね。御柳」
「あ、あぁ」

未だ状況を把握出来ていない司馬の手を引き、適当に走った。
5分程走ると、公園があったので、そこに入り、2人の足はようやく止まった。

「何で…嘘、ついたの?」
「葵は、オレと2人きりになりたくないの?」

墨蓮は、司馬の質問には答えず、話し始める。

「オレさ、今日をずっと楽しみにしてた。今日は、葵と沢山一緒に居れるからって。
何かオレ、一人で舞い上がって、バカみたいじゃん」

こんなこと、言うつもりはなかったのに。
司馬の顔が、どんどん曇ってゆく。
もう、何やってんだよオレ。
ていうか全部御柳のせいだ!!
せっかくのデートなのに、とんだ疫病神だよ…。
墨蓮が小さく溜め息をつくと、司馬が小さく口を開いた。
未だ繋いだままの手にきゅっと力がこもる。

「僕、楽しみだったよ?昨日とか…寝れな…かったし」
「え?」
司馬の手に、また少し力が入った。
「ただ…僕は、僕と居るときとは…違う墨蓮くんが見えたから…
嬉しくて…それで………
2人きりになりたくないワケ…ないじゃん」

司馬はそこまで言うと恥ずかしさのためか、墨蓮に背を向けた。

「ごめんね」

墨蓮は、司馬の背中に声をかける。
「オレ、御柳に焼きもち妬いただけだよ。葵を責めるようなこと言って、
ゴメン。お願い。こっち、向いてくれない?」

しかし司馬は、真っ赤な顔を見られたくないのか、墨蓮の方を見ようとはしない。

「向かないなら、オレの方から行くよ?」

墨蓮は司馬の前に行き、顔を覆う手を取った。
そして、司馬の赤くなった頬に軽くキスをする。

「なっ…!?」
「次は、唇にするから覚悟しといてね?」

そして、墨蓮は司馬の手を引き、歩き出す。
「どこ行こっか。今日は時間も沢山あるし」
「あったかいトコ」

司馬はそう答えると、小さくくしゃみをした。
「じゃあ、どっか入って考えよう」

墨蓮は、司馬との距離が近くなったのを感じ嬉しかったが、
それが御柳のおかげだと思うと複雑だった。
だけど、隣で歩く司馬の幸せそうな笑顔を見ると、
ついつい心の中で御柳に感謝してしまうのだった。
不本意ながらも。



-End-



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