夢見がちイリュージョニスト







「あっ……は、ひじか……」
「総悟、声抑えろ」
「んー……っ。無理、でさっ……ァ!」

少しかび臭くて、冷たいコンクリートに沖田は背中を預けた。
土方が律動する度に、ごつごつと壁に押し付けられる背骨が痛い。
薄暗い校舎裏には授業中だということもあり、土方と沖田以外は誰も居なかった。
それは、この世界に二人だけしかいないという錯覚に陥るには十分すぎる条件だ、と沖田は思った。
声を抑えろ、だなんて言える余裕があるうちはまだ、駄目だ。
俺の声になんて気を取られないくらいがむしゃらに求めて欲しい。
土方さんの余裕なんて潰してやりてェ。
虚ろに輝く空を見上げ、沖田はぼんやりと考える。
土方の肩越しから見るこの世界は、薄暗くかび臭いここでも何故か鮮明で鮮やかだ。
くしゃくしゃに握り締めた土方のシャツが、よれて皺になっている。
自分の中で蠢く熱いものが、自分の身体を知り尽くしたように動き回るのが沖田はただ、悔しかった。
俺はまだ、土方さんのことを何にも知らねェ。

「ああぁっ……!」
「総悟!」

自分を戒めるような土方の口調に、沖田は土方のシャツの上からガリガリと背中を引っ掻く。
しかし土方は、一瞬顔をしかめこそしたが、それにすら動じなかった。
何だィつまんねェの。
土方さんも、俺と一緒に騙されればいいのに。
そうすりゃこんなつまんねェ世界も二人だけの世界になり、かび臭い校舎の隙間も鮮やかな色彩を持ち始めるだろう。
俺と、同じ夢を見てくだせェ。
アンタのつまんねェ理想なんて、うんざりなんでさァ。
ねぇ。
ねぇ、何か言ってくだせェよ。
土方さんってば。

「うるせェな」

行為が終わり、その場に座り込んで立てない、とだだをこねる沖田をおぶさり、土方は家路を辿る。
真昼間に沖田をおぶって商店街を歩く土方の姿は、通行人の視線を奪ってゆく。
引っ掻かれた痕に沖田が体重をかけるため、土方の背中は時折ひりひりと痛んだ。

「じゃあお前は、どんな世界が理想なんだよ?」
「おろしてくだせェ」

商店街を抜け、ようやく人気のなくなった路地に出ると、沖田は小さく呟いた。

「総悟、お前立てねーんじゃ……」
「あんな嘘に引っかかるなんて、土方さんもまだまだですねィ」

沖田は土方の背中から降り、にっ、と悪そうに笑った。

「テンメ……!」
「もっと土方さんが錯覚してくれりゃァ、それが理想の世界でさァ」
「どういう意味だよ?」
「もっと俺だけ見て。俺だけを見てくだせェ。俺だけを好きでいてくだせェ。この世界が枯れても俺たちだけは鮮やかな夢が見られるように」

土方はしばらく沖田を見つめていたが、ふいっと目を反らして頭を掻いた。

「あー、なんだ。俺は、お前だけを見てるつもりなんだが。それでも足んねェのか?」
「逆に聞き返しますが、それじゃあアンタの理想は何なんですかィ?」

土方の言葉に、沖田は明確な回答を避けるように訊ね返す。
考え込む土方をよそに、沖田はタタタッ、と走って土方を追い越して振り返る。

「学校行って近藤さんが居て俺が居て山崎が居て? 勉強もそこそこにやってたまにさぼって部活してそれが卒業まで続く、ですかィ?」
「何でわかるんだ」
「俺だって、そうでさァ」
「じゃあ錯覚する必要なんざねェだろうが」

さっきから支離滅裂で筋の通っていない沖田の言動に、土方はほとほと呆れ返っていた。

「二人で居る時くらい、脳みそからっぽにして錯覚しやしょうよ」

沖田の瞳の奥が妖しく光り、土方を射抜く。

「お前は元々空だろうが」
「いやァ、土方さんには適いやせんよ」

沖田の言いたいことが、ようやく何となく理解できたらしい土方は、にやりと笑って沖田の肘を掴んだ。

「じゃあ、もう一回錯覚でもするか?」
「学校サボって不純同性交遊ですか、不良ですねィ」
「その言葉、そっくりそのままお前に返すよ」
「俺は土方さんに付き合ってですねィ、仕方なく」
「わかったから、黙ってろ」

だんだんと余裕のなくなってゆく土方に、沖田はにやりと笑った。
二人は急いで元居た場所へ戻り、狭い校舎裏でひたすらに求め合う。
ようやく一歩、理想に届いた世界で沖田は、再び土方の背中のシャツを握り締めた。










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久々の更新土沖。
微エロなのかどうなのかギリギリな微エロ。
微エロってかぬるすぎエロとも言えるようなエロですみません。
銀魂で小説書くときは、探り合うような会話をさせるのが好きです。



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