夕焼け空
泣きたくなるほどの赤い空の下で、大切な人のことを思った。 何となくにしか過ぎていかない毎日に、灯り燈す小さな想い。 優しい声に包まれて、動けない僕。 会えない、今日。 沈みゆく太陽に伸ばした掌は、空とおんなじ色に、染まった。 「もしもし」 鞄のポケットでぶるぶると震える携帯を、猛スピードで開いて通話ボタンを押した。 「オレオレ。オレだよ」 「オレオレ詐欺の方ですか?」 「バーカ、ちげーよ! 大体今は振込み詐欺って言うんだぜー」 「知ってるよ、それくらい」 電波の向こうで呑気な声で喋る芭唐に、少しだけ悪態吐いて笑う。 「何してた?」 「下校中。芭唐は?」 「ずーっと練習」 「普段サボってるから、キツいでしょ」 「そうなんだよ、屑桐さんこえーしよー」 「自業自得だよ」 「ンな冷てーこと言わずに慰めてくれや」 「やだよ」 僕は何だかんだ言いつつも、結局真面目に合宿に参加してる芭唐を思い浮かべて、小さく笑った。 「何笑ってんだよ」 「十二支も、負けないからね」 「おー恨みっこ無しだぜ?」 「わかってる」 「んじゃ、休憩終わりそうだし切るわ」 「うん」 「帰ったらそっこー会いに行くからよ」 「待ってる」 「じゃーな」 「ばいばい」 十分足らずの会話は、あっという間に僕に灯りを燈して幕を閉じた。 沈みかけの太陽が、僕に向かって笑っている気がした。 「あと二日の我慢かぁ……」 一人小声で呟いて、苦笑する。 こんな、子どもみたいな独り言を聞いたら、彼はどう思うだろう。 本当は、僕の方がずっとずっと会いたいんだよって知ったら、喜んでくれるかなぁ。 「明日も電話できたらいいな」 次こそは素直に慰めてあげようなんて、出来もしないことを思って空を見上げる。 笑う夕日に笑顔を返した。 携帯閉じて歩き出した。 夕焼け空が僕を照らす。 きっと同じ空の下、芭唐も同じ想いを抱いてくれている。 早く、会いたいな。 心燈る灯りは、大きく育っている。
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