贅沢な悩み
猿野天国15歳。 オレは今、猛烈に悩んでいます。 今日は、午後から葵ちゃん家で会う予定だ。 着いたら勝手に入れって言われてたから、着いたらすぐ、葵ちゃんの部屋へ向かった。 だけど、部屋に入ったら葵ちゃんはぐっすりと眠ってて。 しかも、サングラス無しにヘソチラというおまけまでついて!! 「葵ちゃ〜ん、起きねーと襲っちまうぞ?」 そう言いながら揺らしても、起きる気配はない。 寝顔&ヘソチラの葵ちゃんは、メチャメチャイイ眺め。 つか、これはまさに据え膳。 髪は太陽に反射してすげー綺麗だし。 睫毛なんか見とれちまうほど長げーし。 厚めの唇とか、首筋とか白い肌とか小っちぇーヘソとか… もう言い出したらキリねーけどとにかく今!! 目の前で寝てる葵ちゃんは、オレにとっちゃご馳走みてーなもんで…。 「んぅっ…あま…くにぃ…」 しかも、こんな時に寝返りうって、ンなこと言うもんだから…。 「いただきます!!」 「ぅわっ…」 ゴンッ!! 「痛っ…」 「痛ってー!!!!」 覆い被さったオレの額と、驚いて起き上がった葵ちゃんとの額とが思いっきしぶつかった。 「何っ…すんの」 葵ちゃんは、涙目で額を押さえながら、怒ったように言う。 もう、そんなの全部逆効果だ。 涙目で顔真っ赤な葵ちゃんはかなり可愛いし、つかまたチャンスを無駄にしちまったし!! 「寝顔が可愛くてよ…ついな。あ、何もしてねーぞ?」 「したら許さないっ」 そう、オレの悩みは、このガードがゆりぃんだか固ぇんだかわかんねぇ、 異常に恥ずかしがりやの可愛いオレの恋人、葵ちゃんと付き合い始めて3ヶ月。 キスどころか、手さえ繋ぐのも精一杯、抱き締めることすら出来てねぇっつーことだ。 持ってきた約束のビデオをつけて、葵ちゃんの横に腰を降ろす。 投げ出された手に自分の手を重ねれば、葵ちゃんの身体に力が入るのがわかった。 「あ、嫌だったか?」 慌てて手を引っ込めたら、葵ちゃんがオレの手を掴んだ。 「えっ!?葵ちゃん?」 「嫌じゃ…ない。やめないで」 消え入りそうな声で、そう呟く。 「でも…無理しなくても、いいぞ?」 でも、葵ちゃんは顔を真っ赤にしたまま、オレの手を離さない。 「大好きな人に…触れないなんて。…嫌だから」 オレは、葵ちゃんの手を強く強く握り返した。 そして、うつ向く葵ちゃんを引き寄せて、抱き締める。 「ちょ…離し…」 オレの腕の中で、葵ちゃんの身体が固くなる。 「ヤベーすげぇ嬉しい初めてだよな?葵ちゃんから…」 情けねーけど、オレの手は震えてる。 「オレ、一人で空回りしてんじゃねーかって不安だったけど、 そうじゃねぇみてーで良かった…」 そう言って、抱き締める腕に力を込めれば、そろそろと葵ちゃんの腕がオレの背中に回る。 「天国が僕に…触りたいっ…とか、思ってくれてるみたいに…」 「あぁ」 「僕も…思ってるから」 そして、葵ちゃんも腕にぎゅぅっと力を込める。 葵ちゃんは、耳まで真っ赤にして、恥ずかしそうにぶるぶると震えながら、 オレにくっついている。 そんな葵ちゃんを見れば、キスとかにこだわってる自分がアホらしくなってきた。 「葵ちゃん、サンキュ」 右手で葵ちゃんの頭を撫でながら、そっと耳元で囁く。 葵ちゃんは、そんなにまでなって、オレに触りてぇって思ってくれてる。 オレはただ、その気持を受けとめりゃいいだけだ。 うん、それでいい。 好きだから。 誰より何より大切だから。 「オレ、葵ちゃんが慣れるまで、何年でも待つわ」 「…いいの?」 「あぁ、待てる」 「…ありがとう」 オレは、葵ちゃんが大好きで、可愛くてたまんなくて、 葵ちゃんもオレを好きでいてくれてる。 それならただ、一緒に居りゃいいことだ。 これから先のことなんか、今は考えなくてもいいのかもな。 「葵ちゃん、大好き」 オレは、葵ちゃんの目を見つめて真っ直ぐに言った。 「……僕も」 葵ちゃんは、くすぐったそうに笑う。 この笑顔がありゃ、当分何も要らねーわ。 これ以上のモン欲しがってたオレはただの欲張りだ。 大切な人が、こんなに幸せそうに、こんなに近くで笑ってくれてんのに。 オレは、贅沢な悩みを捨てて、もう一度葵ちゃんを抱き締めた。 -End-
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